地域適応策事例

地域適応策研究紹介コラム

オーストラリア・クイーンズランドの適応策

法政大学地域研究センター
温暖化影響プロジェクト
北風亮、白井信雄

1.はじめに

オーストラリア全土の干ばつの記録は20世紀だけでも6回 を数える。本稿で取り上げるクイーンズランド州(QLD)では、異常高温により小麦、大麦が50%減収となり、灌漑水の皆無やダーリング川の上流水系網が破壊された 。このような被害はオーストラリア全土に広がっており、気象関連の現象に起因する損失を防ぐため、2007年4月連邦政府が「国家機構変動適応構想」を発表し、「豪州気候変動適応センター」を設立した。これに対応して同年、QLDでは、クイーンズランド気候変動適応センター(QCCCE)を設立し、国内外の研究機関と協力しながらQLD州関連の気候変動問題の研究を開始させた。同年、気候変動に対するレジリエンスを構築するため(オーストラリア初)、QLDは、州の「気候スマート適応策」を策定した。

QLDでは様々な分野が自然環境と密接に関係していることもあり、数多くの研究機関や政府機関、民間組織などが将来の気候変動影響及び適応策に対する調査研究および取り組みを進めている。

2012年に公表された「QLDにおける気候変動適応策―公開報告書―(Climate Change: Adaptation for Queensland -Issues Paper-)」の内容を見る限り、QLDの取り組みは、適応の先進事例として挙げられるニューヨークやロンドンで行われているようなインフラを中心とする都市型適応策とは異なり、日本における多面的な適応策を考える上で参考になる面が多い。

以下では州の概要について簡単に触れるとともに、上記報告書の主な内容を紹介する。

2.QLDの概要

QLDは、オーストラリア大陸北東部に位置し、その面積はオーストラリア大陸全体の四分の一、170万km2を占める。日本の総面積の4.5倍に相当し、南北の長さは2100km、東西の長さは1450km、トレスストレイト諸島、コーラル海を含めた海岸線の総全長は7400kmに及ぶ。

州の人口は約438万人であり、1km2あたりの人口密度は約2.5人だが、州人口の多くは州都ブリスベンを中心とする都市圏(194.5万人、2008年6月末時点)やゴールドコースト、ケアンズといった観光都市に集中しており、都市部を除く州の大部分には人口希薄地域および非居住地域が広がっている。

主要産業は、石炭、牛肉等の一次産品、観光業、教育産業である。州政府は産業の多様化による経済の活性化を図っているが、製造業は活発ではない。

南半球に位置するオーストラリアは、四季が日本とは正反対である。また国土の大部分は赤道に近いため年間を通じて温暖である。QLDの気候は、北部地域が熱帯雨林性気候(ケアンズなど)、南部地域が温暖な亜熱帯性気候(ゴールドコースト、ブリスベンなど)で、土地により異なっている。熱帯雨林性気候の場合は12~3月が雨季となるが、日本の雨季のように一日中降り続ける雨ではない。また、冬にあたる6~8月でも日中は半袖で過ごすことが可能である。一方、亜熱帯性気候であるゴールドコーストは年間を通じて晴天率が高い。

図1.アサリを大量捕食するナイトビエイ(漁港内)

季節 温度 北部 南部
平均気温 最高 30.4℃ 27℃
最低 22.6℃ 18℃
平均水温 28℃ 23.4℃
平均気温 最高 26.6℃ 21.8℃
最低 18.4℃ 10℃
平均水温 23.4℃ 18℃

3.「QLDにおける気候変動適応策―公開報告書―」の概要

3.1 公開報告書の構成と重要分野

QLDの報告書は大きく分けて2つのパートで構成されている。前半部分は科学的・政策的背景に関するもので州の気候変動適応に対する基本的な考え方や立場、科学的・政策的枠組み等が紹介されている。

後半部分は州が重要と考える7つの個別分野(居住地・インフラストラクチャ・生態系・水管理・一次産業・危機管理・健康)について、現況やリスク、これまでの適応策と今後、実施すべき適応策の概要等が記されている。

公開報告書では、居住地、インフラストラクチャ、生態系、水管理、一次産業、危機管理、健康という重要分野を網羅している。しかし、適応の諸課題は容易に線引きが出来ない上、往々にして分野横断的である。例えば、水管理における適応には、都市雨水の排水・流出を伴った居住地、およびダムや海水淡水化プラントといった主要なインフラストラクチャの双方に関する課題が提起されることになる。この公開報告書ではいくつかの異なる分野別アプローチが採用されているが、上記の各分野は州が直面している主な適応課題群に最も合致するものとして選択されている

3.2 公開報告書の構成と重要分野

2009年、QLD州政府は、QCCCEおよび連邦科学産業研究機構(CSIRO)を通して、IPCC AR4に基づいたQLD州の地域気候変動予測を作成した。作成された予測では、州の13地域毎に気温、降水量、蒸発量に関する適切かつ利用可能な予測情報を提供している。この地域予測からは、QLDの環境、コミュニティ、経済が気温上昇、蒸発、降雨パターンの変化から重大なリスクに直面することが示唆されている。

図表2.QLDにおける温暖化傾向

図表2

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QLD州の平均地表面温度は、1900年代初頭以来、ほぼ0.9℃上昇している。図2はQLD州の温暖化傾向を示しているが、今後40年間、QLD州地域は1.0-2.2℃の温度上昇を経験すると予想されている。QLD州の温度上昇は、熱波の頻度増加につながると予測されている。猛暑日(35度以上の最高気温を有する日)の日数も、特に内陸部では増加すると予想されている。例えば、2050年までにロングリーチでは35度以上の日数が年間112日から156日程度まで、約40%増加すると予想されている。

4.公開報告書に示された分野別適応策の実施状況と今後のあり方

以下では公開報告書で取り上げられている7つの分野の中で、「居住地」「インフラストラクチャ」「生態系」の3分野を例にとり、公開報告書に示された分野別適応策におけるキーポイントを紹介するとともに、注目すべき既存施策/今後の施策をとりあげて、紹介する。注目すべき既存施策/今後の施策は、公開報告書で指摘している施策課題のうち、日本の適応策の状況を踏まえ、日本が参考にすべきと考えられる点を抽出している。

公開報告書の全体像については、QLD適応戦略における分野別施策一覧(pdf:188KB)を参照のこと。

(1)居住地分野

①キーポイント

  • 気候変動、開発、人口増加によって、内地や海に起因する洪水、およびサイクロンや干ばつなどの極端な気象現象からもたらされる居住地への自然災害リスクが増長される。
  • 州政府はすでに州や国の建築基準や法的根拠と同様に、QLD州沿岸計画、法定地域計画を含む土地利用計画・政策を通してリスクに対処するための主要な行動を取っている。
  • 追加的施策が「洪水リスクに対する高度な計画」、「高リスク沿岸地域や脆弱な沿岸コミュニティに対する適応戦略の開発」、「適応のためのバリア構築」、「気候レジリエンスのある開発計画」、これらのために必要とされる。

②既存施策(抜粋)

  • 州政府は気候変動影響の可能性を組み入れた形で建築基準を見直している。

③今後の施策(抜粋)

  • 既に策定された「QLD州沿岸計画」において、2100年までに0.8mの海面上昇をベンチマークとして設定しているが、氷床の融解を考慮した最新の気候科学による検証が必要である。
  • 「QLD州沿岸計画」では、今後100年間の沿岸災害の危険性があると予測されている既存の都市のレジリエンス構築や成長管理を支援する「沿岸災害適応戦略」のための準備協議会設置を求めている。州政府は沿岸災害適応戦略策定に関する指針の提供を、地方自治体との協働で進めていく必要がある。
  • 土地の価値を減少させるような計画スキームおよび方針変更から生ずる地方自治体への損害賠償請求の可能性があるため、適応戦略実装に地方政府の一部が難色を示す可能性がある。潜在的な巨額損害賠償請求からの地方自治体の保護と土地所有者権利のバランスを取ると同時に適応戦略実装を実現するためのオプションを検討する必要がある。

(2)インフラストラクチャ分野

①キーポイント

  • 輸送、通信、エネルギー、水、危機管理サービス、学校、病院などのインフラストラクチャは、気候変動の長期的な影響に対し脆弱である。
  • 潜在的な影響としては、交通の麻痺、都市排水・下水システムの機能不全、より頻繁な停電発生や通信途絶、建物・水道/ガス管、電線等の被害、構造や材料の加速度的劣化が含まれる。
  • 適応策における重要インフラのための適応を優先したシステムアプローチは、特に極端な気象現象の間やその後における、インフラ機能不全のカスケード的波及を最小限に抑えるために必要とされる。
  • 手頃な価格のサービス提供を維持するために、インフラへの適応策は、コスト効果的かつ革新的である必要がある。
  • 適応政策対応においては、意思決定の主体(the drivers)が民間と公共インフラの運用者ごとに異なることを認識する必要がある。

②既存施策(抜粋)

  • QLD復興局は、州のインフラが極端な気象現象に伴う洪水や高潮のリスクに対して、レジリエンスのある形で復興させるよう取り組んでいる。
  • 州政府は州の輸送ネットワーク上の海面上昇、高潮、沿岸洪水に関する影響についてモデル化している。

③今後の施策(抜粋)

  • 政府所有資産のリスクアセスメントが必要である。気候変動がインフラの建設・運用コストを増加させるため、現時点で気候変動影響に対してレジリエンスのあるインフラ構築を保証しておくことは、将来、被災したインフラの復旧、再構築にあたっての納税者が支払うコストを削減することになる。現在、政府の主要プログラムにCCISプロセスを適用するかどうか、精査しているところである。
  • 気候変動を考慮した設計基準への更新が必要である。最新の気候変動に関する考え方を組み込んだ道路計画や設計マニュアルを更新することで、輸送システムに対する影響改善へのまたとない機会が提供される。道路排水マニュアルは、気候変動をより組み入れた形で更新されうる。

(3)生態系分野

①キーポイント

  • QLDの生物多様性は、本質的な価値を持っており、私たちの健康、生活の質と国家経済の持続的発展の基盤となる生態系サービスを提供している。
  • QLDは、長期的な気温や降水量の変化、予測される断続的異常気象の影響増大、あるいは生息地の喪失や汚染、外来種などの非気候要因の継続的な影響の結果として、潜在的に生物多様性の壊滅的損失に直面している。
  • 最も野心的な適応プログラムですら、グレートバリアリーフや湿潤熱帯地域といった生物多様性ホットスポットへの重大な影響を防げそうにない。生物多様性への最悪の影響を回避するためには効果的な緩和策が必要である。
  • 州政府は、自然保護地域の拡大やグレートバリアリーフの保護、新たな生物多様性戦略ドラフトを含む、生態系の能力改善を通した変化への自然適応と呼べる、いくつかの取り組みを採用している。
  • 気候変動によってもたらされるQLDの生物多様性への一般的な脅威は明らかであるが、生態系に関する地域的影響やどういった反応を示すかについての理解がさらに求められる。より詳細な理解は、政府が的確な優先順位付けや将来の適応行動を定めるのに役立つ。

②既存施策(抜粋)

  • 州における保全管理の中心となるのは、「自然のレジリエンス構築:QLD州生物多様性戦略草案」である。生物多様性戦略草案は、種や生態系、生態系プロセスのレジリエンス構築を中心として、州の生物多様性保全計画について記述している。

③今後の施策(抜粋)

  • 生物多様性戦略草案において提起された「生物多様性の適応管理(Adaptive management of biodiversity)」は、気候変動影響に関して利用可能で、最新かつ信頼性の高い情報の組み入れ、反映した形での「継続的なモニタリング」および「管理プラクティスの修正」を伴っていなければならない。

(4)水管理

①キーポイント

  • 過去100年で最長の干ばつから明らかとなったように、州民は水資源の本質的性質について教訓を得ている。
  • 州政府は、すでに水に関する安全保障政策、あるいは近年、南東QLDの水供給網、地域水供給戦略、水の保全対策、水のリサイクルや海水淡水化プラント(desalination plants)を含むインフラに多額の投資を行ってきた。
  • 一部地域において気候変動が長期的干ばつをもたらすと予測されているが、降雨量についても洪水リスク増加を伴ってより強烈になるかもしれない。どちらにしても水資源や環境への圧力は高まりうる。
  • 気候変動に対して最善の適応をするには、より効率的に水を節約し、管理する必要がある。
  • 州政府は気候変動影響に対する州の水供給体制の構築に向けて着実な進歩を遂げてきた一方で、対処すべき課題として水源のさらなる多様化や洪水地域における水の利用可能性に関する認識向上等が挙げられる。

②既存施策(抜粋)

  • 水資源計画と運用計画は、州のほぼすべての流域をカバーし、環境流量(environmental flows)が維持可能となる水配分についての構成を決めている。また、雨水タンクや海水淡水化プラントを通じた水使用の削減についても検討している。これら計画では、追加的に水供給へのアクセスをしてくる新しい産業や発展途上のコミュニティに対して、何らかの手法を提供するものとして、恒久的もしくは季節的に水の取引を可能とする「水取引制度(water trading regime)」の導入を図っている。
  • 地域水供給戦略は、地域単位での短期的・長期的な水の安定供給を確保するための州政府のアプローチである。これらの戦略は、水の需給バランスを保ちつつ、今後50年間の地域水供給に関する課題解決策を提供している。戦略は、州全体を6つの地域に分割し、策定されている。

③今後の施策(抜粋)

  • 将来の降雨量は、激しい降雨を挟んだ長期干ばつを伴って、より変化すると予測されている。これに対し、州は干ばつ時に水の安定供給を最大限確保するため、多様な水資源利用を可能にする必要がある。過去の長期間にわたる少雨の経験から、海水淡水化プラントといった代替水源(alternative sources of water)に着目した。最近の豪雨に伴い、特に雨水や地下水を利用した降雨の回収・貯蔵(the capture and storage of rainfall)を最大化するための最善の方法を検討する時期になっている。
  • 我々はできるだけ多くの水を保持し、大気中への消失を最小限に抑えることが重要である。蒸発率増加を克服するために、我々はパイプラインへの水供給路変更や小規模ダムのカバー(covering small dams)、または地下貯水の利用増加といった戦略群を採用する必要がある。
  • 適応戦略は、水の安定供給が農業、産業、ビジネス、住宅、環境など、様々な部門にわたって確実に維持管理される必要がある。加えて、川岸や湿地生態系(riparian and wetland ecosystems)における流水の維持管理を目的とする「生態系管理戦略(ecosystem management strategies)」においてもより良い統合が必要とされる。

(5)一次産業

①キーポイント

  • 第一次産業部門は、州および国家の経済的・社会的厚生にとっての重要な貢献者である。しかしながら、当部門は様々な気候リスクに対して極めて脆弱であり、特に利用可能水の減少、害虫や雑草侵入の増加(increased pest and weed incursions)、大規模な土地劣化の引き金となる気温上昇があげられる。
  • 小幅で長期にわたるような気温上昇であっても、農業や林業からの全体的な生産減少につながる可能性がある。
  • 州政府は、すでに第一次生産者への気候変動適応支援を目的とした320万豪ドルの「ClimateQイニシアティブ」をはじめ、気候変動リスクや影響、適応可能性に関する評価支援ツールである「気候リスク管理マトリックス(climate risk management matrix)」の開発(産業部門主導)などを含む、多数のプログラムに対して資金拠出を行っている。
  • 潜在的な気候リスクに対する部門の理解促進に焦点を当てる一方、対象を絞り込んだ「地に足の着いた(on-the-ground)」適応行動へと(その内容が)移行している。

②既存施策(抜粋)

  • QCCCEによって開発された「気候リスク管理マトリックス」は、州の一次産業における気候変動リスク・影響、およびレジリエンスを評価するための意思決定支援ツールである。
  • 2010年に導入された一次生産者に対する気候変動適応支援は、州の一次生産者が気候変動リスクを管理し、新たな機会を活用することができるよう、情報やツールの提供を行うにあたって320万ドルを投資している。このイニシアティブは、以下に示す複数のサブプロジェクトをカバーしている:
  • 気候変動に対する主要な園芸地域や商品の脆弱性評価
  • 生産性変化による農場経営、地域コミュニティ、州経済に対する意味の識別
  • 気候変動の物理的・財務的影響、または企業活動や地域経済に対する経済的影響、および異なる適応オプション間の費用便益分析・一次生産者のリスク管理手法の調査
  • 魚の生息環境に関する脆弱性評価を含む、海洋魚類生息域における海面上昇の影響評価

③今後の施策(抜粋)

  • 最近のいくつかの研究は、行動を起こそうとしている土地所有者にとっての重大な障壁は、社会的、心理的要因に関連するものである。特にストレスの多い状況下での支援の欠如、これによる行動を起こそうとする個人の意欲の低下について指摘している。支援は、以下を介して提供される:
  • 既存農場の持続可能性改良普及員(existing farm sustainability extension officers)
  • 業界団体、精神衛生サービス(mental health services)、農村女性グループ、または金融・保険機関といった主要地域組織
  • 政府および主要部門の意思決定者との間での技術作業部会(technical working groups)
  • 研修を条件とする政府の普及(an extension of government provided training)
  • 早期の行動における重要な推進力は「市場の力」であり、特にオーストラリア製品への市場アクセスを維持することである。現時点でオーストラリア国外の生産性の低い主要地域(例えば、北欧、ロシア、北米地域)は、温暖化気候の下で農業生産を行える段階に入って来ることが予想されている。とりわけ、オーストラリアに対する影響は、自国農産品を誰が買うのか、価格競争力、カーボンフットプリントといった事柄に依拠している。これらの影響をより深く理解するためのリスクマネジメント・アプローチは以下の通りである:
  • 気候変動に対する脆弱性地域の明確化
  • 世界の食糧生産における地理的変化が、製造や食品加工のための供給、配送に与える影響の明確化
  • 農産物や生産場所の範囲を通した生産者の収入源多様化支援
  • 洪水、干ばつ、熱帯低気圧といった交通やその他供給網の切断に対するバッファーとなる食糧地域や食品加工の分布、場所の調査
  • 複数の部門や政策分野を含む協力的な取り組みは、研究投資の効率性と生産性を向上させ、また非適応的(maladaptations)で誤った結果をもたらす可能性を減らすことにもなる。したがって、複数の問題に対処する、または複数のメリットを提供するような一次産業における対策が優先されるべきである。例えば、以下のような対策である:
  • 州の食糧政策草案および戦略的収穫地政策の対象支援
  • 最も効率的な水利用および/または膨大な水生産力を伴った土地利用の実践促進
  • 「再生林」もしくは「戦略的回廊のような環境に配慮した植林」の再興によって在来種に対し生息地提供
  • 国際的な市場の要求(例えば、炭素市場)に合わせた最大の機会提供
  • 土地所有者や地域コミュニティ(例えば、干ばつ政策)への支援
  • 産業開発戦略(例えば、国家農業研究、開発・拡張戦略、国家干ばつ改革政策)との関連付け

(6)危機管理

①キーポイント

  • 危機管理部局は、極端気象現象への対応や備えを継続的に改善していく責任がある。州の洪水諮問委員会からの勧告は、このプロセスを支持するだろう。
  • 気候変動は、自然災害や極端気象現象の地理的パターンにおいて、頻度、強度、変化の増大をもたらすだろう。
  • 危機管理分野に関する主な気候変動影響は、時間の経過とともに危機管理関連施設への全体的な圧力を増加させることになるだろう。
  • 土地利用計画を通じた効果的な適応は、地域コミュニティでの自然災害影響軽減に資するだけでなく、危機管理関連施設への過剰な圧力の一部緩和にも資するだろう。
  • 極端気象現象への備え、対応、発生後の復旧といった各局面において、個人やコミュニティの判断・責任に基づいた行動を奨励する措置は、気候変動に起因する危機管理関連施設への過剰な圧力を軽減するのに資するだろう。

②既存施策(抜粋)

  • この5年間で693万ドルのプログラム(2009-10年開始)を通じて、コミュニティの意識啓発を行うとともに、自然災害の発生時に自らの安全と福祉に守れるよう、個人、家族、企業の能力向上を図る。

③今後の施策(抜粋)

  • 被災したコミュニティに対する政府支援の価値を否定することなどできない。しかし、気候変動および頻度・強度の増大した極端事象の可能性を前に、発生時あるいは発生後を通して、コミュニティがもっと自立的になるよう支援していく必要性がある。極端現象に対するより良い備えとなる対策について、個人的に、あるいはコミュニティの一員として、人々に助言するようなプログラムや活動を推奨している。効果的なプログラムは以下の通りである。
  • 高齢者、ホームレス、障害者、英語が第二言語である人といった脆弱性を有するコミュニティメンバーに対する周知および支援についての計画への盛り込み
  • 人々の自発性促進
  • 災害影響に対するレジリエンス向上のためのコミュニティ資源の調整、議論へのコミュニティ参画
  • ニューサウスウェールズ州とビクトリア州の一部地域における洪水や熱帯低気圧「Yasi」を発生源とする、2010-11年のQLDの大部分にわたって発生した洪水などの極端現象は、複数の極端現象が同時、あるいは連続的に発生した場合、危機管理サービスをどのようにして提供すべきかを実証している。そのような現象には、発生時に不足する資源の提供、発生後の復旧支援に際して、3つの政府レベルすべてが必要となる。
  • 将来的には、公共部門および民間部門の機関については、非営利セクターと協力して、緊急時のビジネスの継続性確保のためにリーダーシップを発揮する必要がある。これには実物資産、ビジネスシステムやサプライチェーンの運用および人材の可用性等を維持することを含んでいる。
  • NSDRは、災害レジリエンスを有するコミュニティの特性について強調している。例として以下のようなコミュニティを挙げている:
  • 地域リスクやリスクに最も脆弱な人々を認識、理解している
  • 自分自身、他人、資産、資本を保護するべく災害を予測し、対応するための積極的な措置を講じる
  • 地域の知見、ネットワーク、リソースを活用して協働する
  • 緊急時およびその事前事後において、危機管理サービス、自治体や他の団体と協力して作業を行う
  • レジリエンスのある危機管理計画と強力なボランティア危機管理部門を有する
  • 企業やサービスプロバイダ向けの継続計画を包含している
  • 生命と財産へのリスクを軽減するような土地管理や建築基準を採用している
  • 迅速な災害復旧を実現するシステムを有している

(7)危機管理

①キーポイント

  • 気候変動によって新たな健康状態または疾患が生成されることはほとんどないが、病気や疾患についての発生率、パターン、範囲、季節性の変化が予想される。
  • 気候変動は、気象パターンの変化や熱波、熱帯低気圧、鉄砲水などの極端現象の増加を介して、健康への直接的な脅威をもたらす。
  • また、気候変動が社会·経済システムに影響を与えることでもたらされる、健康への間接的な脅威もある。
  • 州政府は、保健医療サービスを提供するだけでなく、州民の健康を守るために多くの部局にまたがって幅広いプログラムを実施している。
  • 健康分野における州政府の適応策の有効性は、気候変動による圧力増大に準備・対応すべく構築される既存の国家医療・防護システムの能力に依存することになる。
  • 気候変動の結果として、病人、高齢者や低所得者層を含む、脆弱性を有するコミュニティ成員は、健康影響を被る可能性がより高くなる。

②既存施策(抜粋)

  • サービス提供者が熱波によってもたらされる健康上のリスクに対処可能となるよう、州政府は、「州の熱波対応計画2004」を策定した。熱波対応計画は、異常高温現象への連携対応を可能とする枠組みを提供する。

③今後の施策(抜粋)

  • 極端現象カウンセリングと呼ぶべきカウンセリング支援を州民にどのように提供するのかを検討する必要があり、そのことに関しては、影響を受ける人々、もしくは高リスク地域の人々の個々の事情に合わせる、あるいは性別、年齢、文化の違いを考慮して適切に対応することになる。

5.QLDの適応策からの示唆

QLDの適応戦略は日本の適応に関する利害関係者にとって多くの示唆をもたらす

戦略全体を俯瞰してみると分野の網羅性や科学と政策の統合という部分が興味深い。科学分野および7つの個別分野それぞれについてリスクや施策、課題などが整理されており、多岐にわたる分野において考察、検討がなされている。また、分野別アプローチの底流には科学と政策の統合という一貫した枠組みが存在しており、客観的根拠に基づく政策形成、実効性の担保、あるいは州民への説明責任といった文脈からも示唆深い内容となっている。

また各分野の詳細について見ても、科学的知見を供給する研究機関が充実している点や企業セクター・市民セクターとの協働が具体的に明示されており、そのためのツールや必要事項についても検討がなされている点など多くの示唆に富んでいる。

参考文献

1)QLDにおける気候変動適応策―公開報告書―Climate Change: Adaptation for Queensland -Issues Paper- (http://www.ehp.qld.gov.au/climatechange/pdf/adaptation-issues-paper.pdf)(2013/5/1 アクセス)

2)QLD政府観光局ウェブサイト(http://www.queensland.jp/iss/japan/travel_info/travel_info_home.cfm)(2013/5/1 アクセス)

3)在ブリスベン日本国総領事館ウェブサイト(http://www.brisbane.au.emb-japan.go.jp/Japanese/info_qld.htm)(2013/5/8 アクセス)