地域適応策事例

国内事例紹介コラム

気候変動適応社会に向けた山陽小野田市の取組
温暖化に適応できる新たな地域社会をめざして

山口県山陽小野田市環境課
光永晴美

平成23年11月27日に、山口県山陽小野田市において 「環境フォーラム2011 地球でいったい何がおきているのか 〜健康な地球へ 豊かな地域へ〜」を開催しました。 このフォーラムでは、地球温暖化をキーワードに、地球温暖化のメカニズムから、温室効果ガスの排出削減をめざす「緩和策」に加えて、 今後数十年にわたって気候変動の影響が避けられないとのIPCC第4次評価報告書の指摘により、地球温暖化の影響を 踏まえた地域社会のあり方を考える「適応策」についても、情報交換を行いました。

図1.アサリを大量捕食するナイトビエイ(漁港内)

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当市は、本州最西に位置する山口県の西部、人口約6万6千人の、小野田市と山陽町が平成17年3月に合併してできた市です。 瀬戸内海の周防灘に面し、全国でも大変珍しい漁場があり、水深10mの海底にアサリが生息し、潜水士が海底に潜って漁を行っています。海底で生息するアサリは、 常にプランクトンを摂取できるおかげで干潟のアサリと比べて成長が早く、殻が薄くて身が大きく味も濃いと評判で、地域ブランド「小野田あさり」として、大人気でしたが、 地球温暖化の影響により、熱帯海域に生息していた「ナルトビエイ」が、平成13年頃から瀬戸内海に回遊し始め、ブランドのアサリを捕食し、壊滅的打撃を受けています。

図2.大規模冠水したJR厚狭周辺(H22.7.15)

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また、平成22年には、集中豪雨により、河川が氾濫し、街の中心部である厚狭駅周辺が広範囲にわたり冠水し、 約600世帯もの家屋が浸水しました。平成23年には高校生が熱中症で34名も搬送された事件もあり、これらは、地球温暖化の影響と無関係では ないことから、市民の環境に対する関心が非常に高く、特に温暖化の影響に対応するため、住民同士の自助や共助を実践しており、情報共有の場として、 環境フォーラムを開催した所です。

フォーラムは、3部構成で行い、1部では、学術的観点からのアプローチとして、元山口東京理科大学教授の加納誠氏による 「地球温暖化による気象変動について〜私たちの生活は?〜」と題し、地球温暖化は本当に地球規模で起きているのか?世界各地の観測結果による気象変動について 基調講演を行い、2部では、行政の対応と対策として、県地球温暖化防止活動推進センターによる地球温暖化のしくみと、この原因は本当に人間活動によるものなのか? という疑問に対して講演を行いました。最後に第3部では、地球温暖化の影響に対して、地域における脆弱性の理解とそれに対する適応策について、11の企業や市民団体、 生産者団体、教育機関から一般市民の取組、さまざまな活動について事例発表を行いました。

図3.環境フォーラムの様子(H23.11.27)

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図4.チラシ(H23.11.27)

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実際に起きた豪雨災害や熱中症患者の増加、漁業被害などについて、今後、市民が相当な「緩和策」を実施しても、 その間、地球温暖化は進行し何も対策を講じなければこれらの現象が深刻化していくと予想され、地域がいままで築いてきた豊かさを享受し続けていくために、 どう温暖化に対応していけばよいか、事例発表と情報交換を行いました。 例えば、熱中症患者の増加については、高齢化が進んでいる当市では脆弱な面があります。そのため高齢者が集いやすいよう公民館を集中的に冷暖房完備し集約化、 高齢者の孤立防止も兼ね添えた交流の場として活用している事例が紹介されました。

また、ナルトビエイの来襲による漁業被害についても、閉鎖的海域である瀬戸内海では、外来魚がいったん移住してしまうと、 生態系の崩壊という脆弱な面があります。そのため何も対策をしなければ、漁業被害が甚大となるため、地元漁協では集中的に駆除を実施しており、またそれらを何か活用できないかと、 地元漁協女性部により竜田揚げなどの料理を考案されている事例も紹介されました。もともとナルトビエイは、尾に毒針をもつうえに、体内に蓄積しているアンモニアのせいで臭いが強く、 すぐ醗酵し食用には向かないと思われていましたが、市を中核として研究機関や大学、企業などと連携し、生態解明や成分分析など共同研究が行われ、有用化に向けたプロジェクトが 立ち上っています。今や温暖化を逆に利用して、漁師の副収入や市の活性化につながればと期待しているところです。参加者からは、これらの取り組みに対して、「地球温暖化を逆に うまく活用する方法があることを知った」「これからは地域の共助が必要なんだと思う」とのご意見をいただきました。

今後、「緩和策」だけでなく「適応策」についても両輪で理解を深め、研究機関や大学、企業等の取組を横断的につなぎ、市民に分かりやすい形で 情報提供していく必要があります。地方の取組が気候変動適応社会構築への一助となればと願っています。