地域適応研究

地域適応策研究紹介コラム

東京における温暖化とゲリラ豪雨等局地的極端現象との関係解析に関する研究

東京都環境科学研究所 副参事研究員
都市自然環境・資源循環対策担当
横山 仁

1.はじめに

東京をはじめとした大都市では、過去に例を見ない速度で気温が上昇している。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次評価報告書によれば、世界の年平均気温は過去100年で0.74℃上昇したとされるが、東京の気温はそれを大きく上回り、100年間で約3℃上昇している。これには地球温暖化の影響のほか、都市化に伴うヒートアイランド現象が大きく関与しているとされる。

都市部における気温上昇は、熱中症や寝苦しさの増大といったいわゆる都市生活者に対する熱環境的な悪影響だけでなく、都市部における局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ豪雨」とよばれる都市型豪雨との関連が示唆されている。2008年8月に東京都豊島区で発生した下水道工事中の死亡事故や、2010年7月の板橋区や北区を中心とした浸水被害は、ともに局地的な積乱雲に伴う短時間豪雨とみられ、いわゆるゲリラ豪雨による典型的な災害とみられている。

こうしたなか、自治体の関連部局においても、ゲリラ豪雨等の局地的な大雨に対する対策の検討が急がれているが、降雨の実態やメカニズム等がほとんど明らかになっておらず、豪雨の発生を事前に予測するのは非常に難しいのが現状である。

東京都においても、これまでに気象庁からの気象情報のほか、下水道局の降雨情報システム「東京アメッシュ」や、建設局の「東京都水防災総合情報システム」といった独自の気象観測体制を構築してきた。また、ハード面においても、時間雨量50mmに対応したインフラの整備等先進的な水害対策に取り組んできている。

しかしながら、こうした状況下においても、なお被害が発生している現状があり、ゲリラ豪雨を主眼とした対策の検討が急務とされている。

2.ゲリラ豪雨の実態と都市における温暖化との関係

本来、ゲリラ豪雨は気象用語ではなく、どのような雨をもってゲリラ豪雨とするかについても明確な定義はないが、気象庁によれば、全国の日降水量200mm以上の大雨の日数は、1900年代初頭と比べ最近30年間で約1.5 倍に増加している。また、1時間降水量50mm以上の短時間大雨についても、その回数が確実に増加していることがわかっている。

東京に限った場合はどうだろうか。藤部ら(2008)は、東京における過去118年間の降水データを解析した結果、夏季の夕方から夜間(17〜23時)にかけての短時間降雨が、100年当たり約50%の割合で増加していることを明らかにしている。また、最近30年間の短時間降水量を、東京都心とその周辺地域で比較したところ、東京都心の降水量は周辺地域よりも30%以上多いという。他にも同様の報告があり2)-4)、周辺地域に比べ東京で短時間降水量が増えていることは間違いなさそうである。

ただ、本来、ゲリラ豪雨といわれる局地的な大雨が、直径10kmにも満たない極めて狭い範囲で起きているとされることから、現状の気象庁アメダス(観測間隔が約17km)ではゲリラ豪雨の実態を十分に捉えきれていない可能性があり、今後のより高密度な観測に期待がかかる。

以上のように、東京都心付近において、局地的な大雨が増加傾向であることが示されているが、それが温暖化、とりわけヒートアイランド現象と関連があるかどうかについては不明な点が多く、明確な結論は出ていない。ただし、豪雨直前の気温分布や風系分布、土地利用の関連解析等から、ヒートアイランドや都市化の影響を示唆する報告は多い2)、5)-10)。この点においても、今後の高密度な常時観測ネットワークによる解明が期待される。

3.高密度地上気象モニタリング網の展開

現在、ゲリラ豪雨等の局地的大雨を対象とした高密度な地上気象の常時観測体制はほとんど整っていない。下水道や河川等を管理する部局が従来から独自の気象データを観測してはいるが、観測項目が降水量のみの場合が多く、風や気温等と組み合わせた解析は難しい状況である。

一方、環境関係部局においても、従来から、大気汚染観測を目的とした常時モニタリング網があり、汚染物質濃度と同時に風向風速や気温等を計測している。雨量計は通常設置されていないものの、ゲリラ豪雨や都市温暖化研究への活用が考えられる。大気汚染観測が主目的であることから、観測地点配置に偏りがあるなど、いろいろ問題点もあるが、アメダスに匹敵するほどの観測期間があることは貴重といえる。

こうしたなか、当研究所では、環境省環境研究総合推進費(S-8温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究)により、「東京における温暖化とゲリラ豪雨等局地的極端現象との関係解析に関する研究」を実施しており、前述の既設気象観測網を補完する形で学校等を中心に気象観測機器を設置し、気象観測を行っている(図12)。

今後、隣接する自治体研究機関との連携を図るとともに、レーダーや気象モデルを専門とする研究機関、大学とも協力しながら、都市の温暖化とゲリラ豪雨に関する研究を進めていく予定である(図2)。

図1.都立高校屋上に設置されている気象センサ(デジタル百葉箱)

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図2.都市の温暖化とゲリラ豪雨等局地的な極端現象との関係解析に向けた研究の概要

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参考文献

1)藤部文昭・戸川裕樹・阪田正明:東京都心における暖候期午後の短時間降水の増加傾向—118年間の毎時資料による解析—、日本気象学会大会講演予稿集94、(2008)

2)三上 岳彦:ヒートアイランドの実態と影響 (特集:都市環境とヒートアイランド)、環境管理39(6)、551-555、(2003)

3)藤部文昭:東京における降水の空間偏差と経年変化の実態−都市効果についての検討−、天気、vol.45,No.1、7-18、(1998)

4)佐藤尚毅,高橋正明:首都圏における夏期の降水特性の経年変化、天気,vol.47,No.9,643-648、(2000)

5)木内 豪、宮本 守:神田川流域で近年浸水被害を生じた降雨の特徴について、水循環、63、36-41、(2007)

6)白木洋平・樋口篤志・近藤昭彦:東京都周辺域における都市環境が降水に及ぼす影響、環境科学会誌、22(3)、(2009)

7)鈴木由人・甲斐憲次:関東地方におけるヒートアイランドと夏季雷雨に関する研究-1995年8月2日の事例解析、日本気象学会大会講演良予稿集89、(2006)

8)小林文明:ヒートアイランドが降水におよぼす影響-東京周辺における積乱雲の発達-日本気象学会2003年度春季大会シンポジウム「ヒートアイランド-熱帯夜の熱収支」(2004)

9)高橋日出男・中村 康子・鈴木 博人:東京都心域における夏季の強雨頻度分布と建築物高度分布、日本地理学会発表要旨集 (67)、55、(2005)

10)三上岳彦・大和広明・安藤晴夫・横山仁・山口隆子・市野美夏・石井康一郎:東京都内における夏期の局地的大雨に関する研究、東京都環境科学研究所年報、33-42、(2005)